こんにちは、EC課のガッシーです。
※スタッフの名前はニックネームで記載しています。
最近読んで良かった本をご紹介します。
エヴァン・ダーラの『失われたスクラップブック』です。
エヴァン・ダーラはペンネームで、本名・性別・年齢・出身は明かされておらず、顔写真すら出回っていない、いわゆる覆面作家になります。
正体不明の作家によるこの作品は「環境問題を扱う最重要文学」と評され、その文体は独特かつ奇妙な方法で綴られています。
まず、この本にはピリオドがありません。日本語だと、句点(。)が無いです。
そのため、文章はダッシュ(―)や読点(、)を用いて地続きに書かれています。
また、ほぼ全編が登場人物の会話と内的独白で構成されていますが、キャラクターの名前や身元が明かされることはほとんどありません。
そしてこの小説の最も特徴的な点が、これらの語り手が突如として「交代」することです。
だから僕はウォークマンを耳に掛け、暗い公園のベンチから立ち上がり、歩く、ひたすら歩く、一歩一歩、さらに深い闇に足を蹴り出し、一歩、また一歩と歩く、ひたすら歩く、永遠に歩き、歩き続け、歩き、続け、ずっと、ずっと、ひたすら続け、果てしない車の往来が一台、また一台と、俺の遅刻にお構いなしに、俺を無視して途切れなく続く————
途中で語り手が切り替わったのが分かりましたか?
このように、登場人物やエピソードの境界が曖昧なまま、しかもピリオド無しに進行していくため、話の筋を追うのが難しいです。
エヴァン・ダーラはなぜここまで分かりにくい書き方をしたのでしょうか?
それは、この作品のテーマである「環境問題」に関係すると思います。
物語の舞台はミズーリ州にある架空の町イソーラです。
この町の地域経済はオザーク社という大企業によって支えられていました。
しかし、物語後半でオザーク社が有害廃棄物でイソーラの地下水を汚染していた疑惑が浮上し、住民たちの不信感が募っていきます。
このプロセスが、無数の「匿名」のキャラクターたちの声によって、町と企業の対立構造に収斂していく様が圧巻です。
巨大権力を前に封殺されてきた声が真相を暴く構図は、この特異な文体によって見事に表現されていると感じました。
脈絡のない(ように思われる)挿話が途中300頁まで続くのと、エピソードの区切りがないため途中から読み進めるのが難しいですが、最後に真相が明らかになっていくカタルシスが味わえる一冊でオススメです。
最後に、この本にはピリオドが出てこないと言いましたが、実は作中で一度だけ「。」が使われる箇所があります。
その視点で読むのも面白いかもしれません。
