2022年4月Vol.109 サクッと小噺

※小噺は過去分を随時アップしております。内容に時差がある場合もありますが、是非ご覧ください。

あまり知られていませんが、5 月 5日は「国際助産師の日」です。 2 年前に私は出産をしました。当時を思い出すと、陣痛よりも赤ちゃんよりも、助産師さんを思い出します。 私が若いときに出産していたら (17 才くらい )、将来は助産師を目指しただろうと思うほど感動しました。

私のお腹の中で、ヘソの尾がネジれていました。お医者様いわく「この程度のネジれならよっぽど大丈夫だけど、 胎児が産道を通るときに酸素不足になる可能性がある。既に 3000g を越えているので外界に出てきても問題ないし、 あんまり大きくなっても出るとき大変だし、もう陣痛促進剤を打って胎児を呼び出そうか」となりました。 陣痛促進剤は点滴で投与されます。投与が始まってすぐ陣痛はきたのですが、胎児がまったく降りてきません。 陣痛も、痛いことは痛いけれど、理性が保てる程度の痛みです。これが 2日半続きました。1日目、2日目、3日目、 それぞれ違う助産師さんが病室に来て「サクさんの今日の担当は私だよー。赤ちゃん出ておいでー」とお腹をなでて くれましたが、1日目と 2日目は陣痛が本格化しなかったので、助産師さんも私につきっきりになる事はなく、 たまに私の様子を見に来つつ、他のお仕事を進めていました。そして 3日目の正午に痛みが強くなりました。 下半身が左右に割れて、胎児が旋回を始めたのが分かります。痛みで腰がくだけます。3日目の助産師さんが、 つきっきりで腰をさすってくれます。   
サ「ありがとうございます。すみません。」   
助「いえいえ、ようやく赤ちゃんが降り始めて良かった」   
サ「ずっと腰をさすっていただいて…。今日のお仕事が進みませんよね…」   
助「いやコレが仕事だから(笑)」

自然分娩や緊急帝王切開はいつ何が起こるか予定が立ちません。1日目と 2日目に担当してくれた助産師さんは、 私の陣痛が本格化しないので他の仕事を進めていたのでしょうし、3日目の助産師さんは私の陣痛が本格化したために ずっと私に付き添ってくれました。その分を他の助産師さんがカバーしているのでしょう。 なんとアッパレな連携プレー!
助産師さんは、私の様子を見ながら、「赤ちゃんが何かに引っかかって降下が止まったかも。左向きで横になってみよう」 などのアドバイスをくれます。そのアドバイスに従って上手くいく事もあれば上手くいかない事もあるのですが、 見えない胎児の状況を想像しながら、適切な一手を考える姿はまさにプロフェッショナルで、とても心強かったです。

やがて陣痛のクライマックス。痛みのあまり無我夢中で目をつぶると、「目を開けなさい!」と新しい声。えっ、誰? 目をひらくと、見たことない助産師さんが眼光するどく私を見つめています。さっきまでは居なかった方です。 彼女は「大丈夫、私の目を見て、呼吸して」と唱えながら、私をじーっと見つめるので、私も彼女から目が離せなく なります。また別の助産師さんがテキパキとドレープを広げたり、インスツルメントを並べ始めました。おそらく出産が 近いと読んで準備をしているのでしょう。ずっと私の腰をさすってくれていた助産師さんは、今も腰をさすってくれて います。ついさっきまで助産師さんは 1人だったのに、急に 3 人になっています。す、すごい。

今にも産まれそうな 17:00、5 時間も腰をさすってくれていた助産師さんが「定時なので帰ります」と爽やかに 去っていきました。私にとってはビックイベントでも彼女にとっては日常です。「帰るんかーい!」とツッコミ入れたく なったけど ( そんな余裕はない )、いつ陣痛が始まるか分からない、いつ出産が終わるか分からない、でもスタッフが 定時で働きながら母子を守れる、なんてカッコいい職場でしょうか。(結局 17:19 に生まれました)

出産において、胎児は確実に初心者だし、母も初めてか数回の経験しかありません。助産師さんはプロでも、 実際に頑張る人たちはアマチュアです。助産師さんはアマチュア達を頑張らせなければいけない。誰かを頑張らせるのは、 自分が頑張るより大変でしょう。また、胎児と母の様子をみながら、このまま分娩させるか、帝王切開に切り替えるか、 適切な判断をしなければいけません。スゴイお仕事です。
出産を終えたとき、「この人達のお仕事を間近に見学できただけでも、出産した甲斐があった」と本気で思いました。
5 月 5日は国際助産師の日。世界中の助産師さん、どうもありがとう。心の底から尊敬してます。