スクーリング

 

こんにちは。本日のブログは入社2年目の櫻井が担当いたします。

 

今年8月、1週間の休みをもらって大学の夏期講座に出席しました。本命の哲学は面白くなかったのですが―私に合わなかっただけであり、授業が悪いわけではありません―、なんとなく取った社会学が面白かったです。このクラスでは、100人の受講者を5人ずつのグループに分け、各グループから一人、“テーマ”になる人を選びます(以下Aさん)。Aさんは自分の人生について他の4人に語り、その4人がAさんの人生を理解して、最後には他の受講者に向かって、Aさんの人生について発表するんです。『Aさんの人生を、Aさん以外の人間が語る』ことがミソです。

 

私達のチームテーマに選ばれたのは加藤さん(仮名・50才前後の女性)でした。加藤さん以外のメンバー(おじいちゃん一人、おじさん二人、私)が加藤さんの話を聞きます。他言できないので詳細は書けませんが、一見したところ加藤さんの人生はドラマチックでも何でもありません。幸せな家庭に生まれ、短大卒業後に就職し、結婚し、退職し、出産し、今は二児の母です。最も大きな存在はご自身のお母様です。コレだけ聞くと普通でしょう?しかし話をじっくり聞いていると、人の人生やはりイロイロあるものです。加藤さんも大変なんです。

 

各チームが自由に使える時間は500分でした。多くのチームはAさんの人生の年譜などを作っていましたが、私のチームは何も作りませんでした。メンバーの中にはメディア業界のおじさんがいて、「他のチームはいろんな資料を作るだろうから、いっそ何もない方が目立つ。トークだけで勝負しよう。」じゃあどんなスタイルでやるのかー…話し合った結果、私の一人芝居にしました。私が選ばれた理由は単純で、声が通るからです。芝居は私の好みです。「発表は櫻井さん一人でやるのが良いと思う。僕らじゃ声が響かない。」「オッケーです。だったら芝居っぽくしていいですか。課題の発表ではなく、エンターテイメントにしたいな」そして、他チームが資料作りに勤しむ傍ら、私達は500分間ひたすら加藤さんの話を掘り続けました。おじいちゃんとおじさん二人は次々と質問を投げます。時々キツイ事も聞きます。加藤さんは戸惑ったり混乱したりしながらも、一生懸命答えてくれます。私はひたすらその光景を眺め、彼らの言葉を脳に沁みこませます。

 

  500分は長いかと思いきや、これでもギリギリでした。加藤さんもご自身の人生について深く語った事はないし、それを聞く私達もインタビューのプロではありません。「えっ、どういう事?」「あら、誤解してたわ」「ソレを先に言ってよ~」なんて事が何度もありました。人の話を聞くのも面白いですが、それを聞いている己の心情変化も愉快でした。最初は「へぇそうですか」と他人の話として感じるだけであり、やがて「それは甘えすぎでは?」と反発心が沸き、それでも理解しようと話を聞き続けているうちに、気持ちが加藤さんに同化して感情的になってしまい、やがて、加藤さんを理解しつつも客観的な視点から見られるように変化していきました。同じ人の同じ話を聞いているのに、こうも自分が変化していくものか―と驚きました。そして加藤さんも、「最初は恥ずかしかったけど、誰かに自分を理解してもらえるって嬉しいですね。それに、自分でもわからなかった事がわかってきます」とおっしゃってくれました。

  

  発表で、私は“加藤さん”を演じたり、他の4人を包括した人物としての“私”として話したりしました。30分間のスクリプトを作って暗記はしていましたが、本番ではその通りには話せませんでした。緊張したからではなく、話を聞いてくれる人達や加藤さんの顔を見ていると、自然と他の言葉が出てくるんです。それでいいと思いました。皆さん真剣に聞いてくれて、場面によっては泣きだす方も数名いて、なんだか気持ち良かったです。発表後、加藤さんと同じ悩みを持っている方々や、それを扱うカウンセラーのお仕事をしている方が「何かお力になれれば。いつでも連絡ください」と加藤さんを取り巻いていました。それを見て、「うまくいったな」と思いました。

 

  上記に比べればオマケの評価ですが、「劇団に所属しているんですか?」「スピーチコンテストに出ませんか?」など、何人かが声をかけてくれました。メディアのおじさんからは「君もメディア界の人でしょ。書く方?話す方?」と聞かれました。「いえ、歯科材料の通販です」と答えると、「もったいない!絶対メディアの方がいい」とまで言ってくれました。しかし、彼はメディア業界にいるからわからないでしょうが、他の仕事でも書けるし話せます。人間の伝達手段は言葉であり、仕事においてコミュニケーションは必須なので、多くの職業は書くし話すんです。更に正直に言えば、私にとって「定時に帰る」ことはとても大事なので、多忙なメディアは向かないと思います。

・・・それでも、私が最も憧れる人物は言葉を生業にしている方々なので(夏目漱石(作家)、桂枝雀(落語家)、マツコデラックス(コラムニスト)など)、これらのお誉めの言葉はすごぉーく嬉しかったです。

 

20120921-1.jpgのサムネール画像

 

 

  加藤さんの人生しかり、他チームの発表しかり、皆イロイロあります。言葉にすると陳腐ですが、「誰の人生もドラマチック」です。平凡な人生ってないんですね。皆それぞれ、潰れたり這い上がったりしながら生きているんです。アカデミックな好奇心が満たされるというよりは、人間が愛おしくなるようなクラスでした。