2014年8月号Vol.26

こんにちは、サクッと小噺のサクライです。突然ですが思春期突入時代を思い出してみてください―…
アナタも中二病(ちゅうにびょう)にかかりましたか?

 

中二病とは、中学二年生頃にありがちな自己愛に満ちた嗜好や非現実的な空想を揶揄した言葉だそうです。
たとえば…洋楽を聴き始める、コーヒーを飲み始める、本当の親友を探し始める、自分は他とは違う、大人は分かってくれない、なんか腹立つ、なんか憂鬱、などなど……うーん、10代前半で通るべき健全な変化のように思います。
私にももちろんありました。その中で「あれは滑稽だったな」と思うのは(ぜんぶ滑稽なのですが、特にバカバカしいという意味で)、喀血する男性への強烈な憧れです。

 

私は本が好きでした。これは中二病にかかる前からの嗜好で…いつから本好きなのかは覚えていないのですが、妹の1才の誕生日に貯金箱を割って本をプレゼントした事は覚えています。当時の私は4才。既にその時には本が好きだったのでしょう。さて、中学に入ってから、本だけでなく本を書いた人達に焦がれるようになります。そして「あぁ、インテリは自殺するか血を吐いて生涯を終えるものなんだ。少なくとも神経衰弱くらいはかからなくちゃダメだ」と、とんでもない勘違いをするんです(芥川龍之介、森鴎外、夏目漱石など)。自殺、喀血、神経衰弱…
この中で、私は喀血を一番美しいと思いました。だって情景が綺麗なんです。

 

情景1.縁側に面した畳の六畳部屋。そこで本を読む一人の青年。
    眉間にしわを寄せて真剣にページをめくっていたが、突如苦しそうに顔を歪め、口を手で覆い、ゴフッ…!読みかけの本に飛び散る赤い血。一瞬で日常が非日常に姿を変える。
    慣れ親しんだ世界が遠のいて行く中で、散った血だけがリアルさを増していく…。

 

情景2.喀血した彼はサナトリウムに入ります(長期的な療養を必要とする人の療養所。かつては結核治療がメイン)。
    都心から離れた森林にポツンとたたずむ白い建物。その一室で、やせ細った彼は本を読んでいます。無機質な白い壁と白いベッド、窓の外には瑞々しい青葉―まるで死と生の対比のような部屋。そこに白いワンピースを着た私がお見舞いに来て(いつの間にか彼女として登場)、彼は青白い顔をあげて微かに微笑む。静かに見つめ合う二人。彼は何か言おうと口を開くが、そこで急に胸を押さえ、ゴフッ…! あぁ喀血量が増えている。白い布団に咲いた真っ赤な花は、死が生を制する未来の暗示―…。

 

バカバカしい。本当にバカバカしい。でも、これが私の憧れでした。
今にも死にそうな恋人がほしい。電車を乗り継いでサナトリウムにお見舞いに行きたい。

 

この中二病の後遺症だと思うのですが、27才になった今でも、細くて青白くて生命力の弱そうな男性を見るとキュンとします。「ステキ、今にも死にそう!」と心の中で絶賛してしまいます。

 

…でもねぇ、現実の病気はロマンチックじゃないんですよね。数年前、私の父は血こそ吐きませんでしたが命に関わる病気を患いました(今は回復してますが、全快ではありません)。彼も大変だったし家族も大変でした。
そこで私は「今にも死にそうなステキな男性より、ステキじゃなくてもいいから丈夫な男性の方がいいな」と認識を改めたんです。

 

―と、頭では分かっていても、ときめく胸を抑える事まではできません。
薄命そうな男性にドキドキ という嗜好は未だ残っています…。

 

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